昭和12年に創業、岡山で永きに渡り理美容業界の発展を支える株式会社井上は、平成29年で80周年を迎えた老舗の理美容ディーラーだ。「もともとは祖父が金物屋を営んでいたのですが、さらに事業を発展させるために、先代である私の父(井上太郎氏)と母が結婚した年を創業年と定めて、現在に至ります」井上会長は創業のルーツを語った。理容に尽力することを決意した先代が、タカラベルモントとの付き合いをはじめたのは戦前で、宝鋳工所の時代からである。「私が中学生の頃でしたが、大阪から57号の椅子が大量に運ばれてきたことがありました。事務所内にはとても収まらないので、近所の道路にずらっと並べられ、そこからサロンに次々と配達されて行ったのですが、その光景は何というか壮観でしたね」トラックが10台、20台と連なってやって来た当時の様子は、井上会長の記憶に鮮明に残っている。
先代は技術系でタカラベルモントの製品開発にも貢献した。「前洗がタカラにまだなかった時に、タカラさんと協力して父が工夫を重ね、創り上げたそうです。岡山会館という場所に40台ほど前洗を並べて、排水を整備して試したという話も聞きましたね。蒸し器を兼ねたボイラーなんかも開発して売っていました」
また、アメリカで特許を取得したエレメントアイロンも先代の開発した技術である。「通常のアイロンは手首を捻らないとできないんですが、捻らずに、長い髪でも楽に巻けるというのが、エレメントアイロンの特長です。マニアックというか特殊な技術で、コストもかかるので、現在は作っておりません。それでも、当時から現在までずっとその技術を使い続けてくれている方はいらっしゃいます」開発には、近所の方にもモニターとして協力してもらった。そうして生まれた技術は、株式会社井上の新規開拓にも貢献した。「エレメントアイロン以外に、ストレートパーマもうちで作りました。現在のストレートアイロンのハシリのようなものですね。当時は取り扱いメーカーも限られていたのですが、このアイロンの講習を行ったおかげで、新規サロン開拓ができました」
80年続く株式会社井上の歴史のなかでは、タカラベルモントの社員との交流も多岐に亘る。「その他にもタカラさんの営業担当の方にはいろいろな方がいらっしゃいましたね。先代から、ときに厳しく叱られながらも、可愛がられてよく面倒をみていた担当の方もいらっしゃいましたよ」
80周年の記念式典では、吉川朋秀常務(現専務)に挨拶をお願いした。「実は他社からの推薦もあって、朋秀さんにお願いすることになったんです。お若いのに、周囲からすでに高い評価を得ていらっしゃるのは本当に素晴らしいことだと思います」井上会長、井上専務ともに、これからのタカラベルモントに寄せる期待は大きい。「昔から、タカラさんのものづくりの精神、商品づくりへの想いはすごいと感心しています。これからは、そういった強みを活かしながら、ものづくり以外のところでも改善を続けてもらって、さらにメーカーとディーラーが一体となり、双方が満足できるような仕組みを整備していってほしいと願っています」
取材日:2016年12月22日